乳頭がかゆい原因は?〜受診すべきサインや正しい対処法を乳腺専門医が解説〜

2026/5/27


医師監修コラム

乳頭がかゆい原因は?

〜受診すべきサインや正しい対処法を乳腺専門医が解説〜

この記事の結論

乳頭のかゆみ(乳頭掻痒(にゅうとうそうよう))の多くは、下着の摩擦や乾燥、洗剤かぶれ、ホルモンバランスの変化といった日常的で良性の要因によるものです。適切なスキンケアや外用薬で改善することがほとんどです。

しかし、まれに「乳房パジェット病」という特殊な乳がんの初期症状としてかゆみや湿疹が現れることがあります。「片側だけにかゆみやただれがある」「3〜4週間以上セルフケアを続けても治らない」といった場合は、自己判断で放置せず、速やかに乳腺外科を受診することが重要です。

この記事では、かゆみの原因、見逃してはいけない危険サイン、および日常生活でできる予防法を専門医が詳しく解説します。

1 乳頭のかゆみ(乳頭掻痒)とは?知っておきたい基礎知識

乳頭掻痒(にゅうとうそうよう)とは、乳頭(にゅうとう:乳くび)や乳輪(にゅうりん)の周囲に生じるかゆみや不快感の総称です。

乳頭および乳輪の皮膚は、他の体の部位と比べて非常に薄く繊細(せんさい)です。感覚神経が密に分布しているため刺激を感知しやすく、少しの摩擦や乾燥でも「かゆみ」として脳に伝わりやすい特徴があります。また、乳輪にはモンゴメリー腺(せん)と呼ばれる皮脂腺が多数存在し、乳頭を保護する脂質を分泌していますが、汗や汚れでここが詰まると炎症を起こし、かゆみの原因となります。

ホルモンやライフステージとの深い関係

アンケートや臨床データによると、乳頭のかゆみは多くの女性が生涯に一度は経験する身近な症状です。特に生理周期に伴う女性ホルモンの変動、妊娠・授乳期、あるいは更年期など、ホルモンのバランスが大きく変わる時期に現れやすくなります。

デリケートな場所であるために受診をためらう方が多く、インターネットで間違った情報を信じて深刻に悩んでしまったり、一人で不安を抱え込みやすいのもこの症状の特徴です。

2 乳頭がかゆくなる主な原因(分類と特徴)

乳頭のかゆみを引き起こす主な原因は、日常生活の刺激からホルモンの影響、真菌(カビ)の感染まで多岐にわたります。原因を正しく見極めることが、適切な対処への第一歩です。

原因分類主な特徴とメカニズム発生しやすい時期・要因
接触皮膚炎
(かぶれ)
下着の素材(化学繊維やレース)の摩擦、洗濯洗剤、柔軟剤、ボディーソープなどの化学的刺激による皮膚の炎症。新しい下着や洗剤の使用時、汗をかきやすい夏場
乳頭部湿疹・
皮膚炎
皮膚のバリア機能が低下し、乾燥することによって生じる湿疹。アトピー性皮膚炎の一部として現れることもある。空気が乾燥する秋冬、アトピー素因(アレルギー体質)を持つ方
乳頭真菌症
(カンジダ等)
皮膚に常在する真菌(カビの一種)が過剰に繁殖する感染症。かゆみに加え、ピリピリした痛みや白いカス(垢)を伴う。授乳期(赤ちゃんの口腔内から感染)、免疫力低下時、高温多湿の時期
ホルモンバランス
の変動
エストロゲンやプロゲステロンの急激な変化により、乳腺組織が膨張して周囲の皮膚が引っ張られ、かゆみが生じる。生理前(黄体期)、妊娠初期、更年期
妊娠・授乳期
の皮膚変化
乳房の急激な肥大による皮膚の伸展(伸び)、授乳時の赤ちゃんの吸てつ(吸うこと)による物理的刺激、母乳の付着による皮膚刺激。妊娠中〜授乳期間中

① 接触皮膚炎(かぶれ)

もっとも頻度が高い原因の一つです。ブラジャーのサイズが合わず締め付けが強い場合や、汗をかいたまま放置することによる蒸れが刺激となって炎症(かぶれ)を引き起こします。

② 乳頭部湿疹

アトピー性皮膚炎を持つ方や乾燥肌の方に多く見られます。かゆみが強く、かきむしることで黄色い液体(浸出液)が出たり、皮がむけてカサカサしたりします。

③ 乳頭真菌症(カンジダ感染)

乳頭にカンジダ属などの真菌が繁殖する状態です。授乳中に赤ちゃんが鵞口瘡(がこうそう:口の中に白いカビが生じる病気)にかかっていると、授乳を介して母体の乳頭へ感染することがあります。

3 注意すべき乳がん「乳房パジェット病」とは?湿疹との見分け方

乳頭のかゆみや湿疹で、最も注意しなければならないのが「乳房パジェット病(にゅうぼうぱじぇっとびょう:Paget's disease of the breast)」です。

乳房パジェット病は乳がんの一種であり、全乳がんの約1〜3%を占めるまれな病型です。乳管内で発生したがん細胞(非浸潤がん)が、乳管を通って乳頭や乳輪の表皮に広がっていくことで生じます。初期症状が「赤み、かゆみ、カサカサ、ただれ」といった一般的な湿疹と酷似しているため、多くの場合は湿疹として見過ごされたり、市販の皮膚薬を塗って放置されたりして診断が遅れる傾向があります。

一般的な湿疹とパジェット病の比較

比較項目一般的な湿疹・皮膚炎乳房パジェット病(乳がん)
発生する部位左右両側(両側性)に発生することが多いほぼ片側のみ(片側性)に発生する
症状の経過かゆみが中心で、季節や環境により良くなったり悪くなったりするかゆみに加え、びらん(ただれ)、かさぶた、じくじく(浸出液)、出血が徐々に悪化・拡大する
ステロイド外用薬適切な強度のものを塗ると、数日から1週間で改善するステロイドを使用しても改善しない(一時的に和らぐように見えても治らない)
その他の症状しこりや血性の分泌物は通常見られない進行すると、乳頭の下にしこり(腫瘤)を触れたり、乳頭から血性(赤や茶褐色)の分泌物が出たりする
主な発生年齢層全年齢(特に10代〜40代の若い女性に多い)主に閉経後の女性(50代〜60代以降)に多く見られる
主要エビデンス(乳房パジェット病)
  • 片側性の持続的な湿疹様変化:乳頭の片側だけに生じ、ステロイド外用薬で改善しない湿疹様病変は、組織生検(皮膚を一部採取する検査)を行うことでパジェット病と確定診断されるケースが国際的ガイドラインで示されています。
  • 画像診断との関連:パジェット病と診断された患者の約50〜60%は、乳頭直下や乳房の他の部位に浸潤がんや非浸潤がんを合併しており、マンモグラフィや超音波検査による精密な画像診断が不可欠です。

4 こんな「乳頭のかゆみ」は受診のサイン(レッドフラグ)

乳頭のかゆみの大半は生理的なものや良性の皮膚トラブルですが、以下の「受診すべきサイン(レッドフラグ)」に当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診してください。

速やかに受診すべき危険サイン

  • 片側の乳頭・乳輪だけにかゆみや赤みが続いている
  • 皮膚科で処方された薬や市販のステロイド軟膏を2〜3週間使用しても全く良くならない
  • 乳頭がびらん(ただれ)を起こし、じくじくしてかさぶたや出血を繰り返す
  • 乳頭から血の混じった分泌物(赤、茶褐色、または黒っぽい液体)が出る
  • 乳頭の奥や周囲にしこり(硬い塊)を感じる
  • 乳頭が引っ張られるように陥没(へこむ)したり、形が変形したりしている
  • 閉経後(50代以降)に新しく乳頭のただれやかゆみが出現した
症状パターン緊急度・受診推奨レベル考えられる主な原因
片側のただれ・出血・ステロイド無効★★★ 速やかに乳腺外科へ乳房パジェット病(乳がん)の疑い
乳頭直下のしこり + かゆみ★★★ 速やかに乳腺外科へ乳がん、乳管内乳頭腫、のう胞など
血性乳頭分泌 + かゆみ★★★ 速やかに乳腺外科へ乳がん、乳管内乳頭腫など
授乳中の強いかゆみ・ピリピリ感・白いカス★★ 早めに皮膚科・乳腺外科へ乳頭真菌症(カンジダ)、赤ちゃんの鵞口瘡
左右両側のかゆみ・乾燥(一時的)★ 保湿ケアし、不変なら皮膚科へ乾燥肌、接触皮膚炎(かぶれ)、ホルモン変動

5 受診時の流れと主な検査・治療法

乳頭にかゆみや皮膚の変化がある場合、受診先や検査内容について解説します。

何科を受診すべきか?

第一選択:乳腺外科(にゅうせんげか)
片側だけのかゆみ・ただれ、しこり、血性分泌などがある場合は、乳がん(パジェット病を含む)の除外が必要なため、乳腺専門医のいる乳腺外科を受診してください。

第二選択:皮膚科(ひふか)
左右両側にかゆみがあり、乾燥や下着のかぶれ、アトピー性皮膚炎が明らかな場合は皮膚科が適切です。ただし、皮膚科で「治りにくい片側の湿疹」と判断された場合は、乳腺外科を紹介される流れになります。

クリニックで行う主な検査

  1. 問診と視触診:症状の左右差、持続期間、しこりの有無、分泌物の状態などを医師が視覚と触覚で確認します。
  2. マンモグラフィ検査:乳房を板で挟んでX線撮影する検査です。乳腺全体の異常や、パジェット病に伴う微細な石灰化(せっかいか)の有無を確認します(特に40歳以上の女性に推奨されます)。
  3. 超音波検査(エコー):乳房に超音波を当てて内部を調べる検査です。乳頭の直下にある乳管の様子や、小さなしこりの有無を詳細に観察できます。被曝(ひばく)がないため、妊娠中や若い方でも安心して受けられます。
  4. 皮膚生検(組織検査):乳頭のただれた皮膚をほんの数ミリ切り取り、顕微鏡で調べる検査です。パジェット細胞というがん細胞が皮膚の中に存在するかどうかを判定し、確定診断を行います。

主な治療法

良性皮膚炎の場合:原因に応じた適切な強度のステロイド外用薬やプロペト(ワセリン)などの保湿剤が処方されます。真菌(カンジダなど)が原因の場合は、抗真菌外用薬を使用します。

乳房パジェット病の場合:がんとしての治療となるため、手術(乳房部分切除または乳房全切除)が基本となります。早期に発見できれば、切除範囲を小さく抑えられる可能性が高まります。

6 今日からできるセルフケアと予防法

日常生活におけるちょっとした工夫で、乳頭の乾燥や刺激を防ぎ、良性のかゆみを予防・緩和することができます。

下着(ブラジャー)の選び方と着用方法

  • 低刺激な天然素材を選ぶ:化学繊維(ナイロンやポリエステル)や硬いレースが直接乳頭に触れるのを避け、綿(コットン)やシルク、オーガニックコットンなどの肌当たりの良い素材を選びましょう。
  • 適切なサイズと締め付け防止:ワイヤーが強く当たるものやサイズが小さすぎるブラジャーは摩擦を増やします。自宅や就寝時はノンワイヤーブラやカップ付きキャミソールなど、締め付けの少ないものを使用するのも効果的です。

スキンケアの基本(洗浄と保湿)

  • 摩擦を避けて優しく洗う:入浴時にナイロンタオルで乳頭をゴシゴシ洗うのは厳禁です。低刺激性のボディーソープや石鹸をしっかりと泡立て、手で優しく包み込むように洗ってください。
  • 入浴後の速やかな保湿:お風呂から上がったら、乾燥を防ぐためにワセリンや低刺激性の保湿クリーム(ヒルドイドなど)を薄く乳頭・乳輪に塗布し、皮膚のバリア機能を守りましょう。

日常の刺激物・衛生対策

  • 洗濯洗剤・柔軟剤の見直し:洗剤のすすぎ残しや強い香料がかぶれを誘発することがあります。無香料や敏感肌用の洗剤を選び、すすぎを多めに行う工夫が有効です。
  • 授乳期の衛生ケア:母乳パッドはこまめに交換し、湿った状態が続かないようにします。母乳が付着したまま放置すると皮膚の刺激になるため、授乳後は清浄綿などで優しく拭き取るか、保湿剤で保護しましょう。

7 専門家からのひとこと

乳腺外来を担当していると、「乳頭がかゆくて、でも恥ずかしくて誰にも相談できず、何ヶ月も悩んでいました」という患者様に出会うことが多々あります。「もしかして乳がんなのでは」とネットで検索して深刻に悩み、緊張した面持ちで来院されます。

実際に診察をしてみると、多くは下着の擦れや乾燥による良性の皮膚炎であり、正しい保湿と塗り薬の処方によって、数日から数週間で見違えるように治っていきます。診断がついて安心され、笑顔で帰られる姿を見るのは医師として大変嬉しい瞬間です。

だからこそ知っておいていただきたいのが、「ただのかゆみ」と自己判断して何ヶ月も市販薬で誤魔化し、結果として乳房パジェット病というがんの発見が遅れてしまうリスクです。デリケートな部位の症状を相談するのは勇気が要ることだと思いますが、私たちは毎日たくさんの患者様の乳房を診察している専門家です。どうか恥ずかしがらず、少しでも気になる症状があるときは、安心を得るためにも気軽に乳腺外科のドアを叩いてください。

FAQ よくある質問(FAQ)

Q. 乳頭がかゆくて、かきむしってしまい汁(液体)が出てきました。どうすればいいですか?

A. かきむしることにより皮膚のバリアが壊れ、浸出液(しんしゅつえき:黄色っぽい汁)が出ている状態です。そこから細菌感染を起こすとさらに悪化するため、まずは清潔に保ち、早めに皮膚科または乳腺外科を受診してください。自己判断で市販薬を塗り続けることは避けましょう。

Q. 市販のステロイド軟膏やオロナインを乳頭に塗っても問題ありませんか?

A. 一時的な軽い虫刺されや軽度のかぶれであれば市販薬で改善することもありますが、乳頭はデリケートな部位であり、ステロイドの吸収率も高いため自己判断での長期使用は避けてください。また、もし「乳房パジェット病」であった場合、ステロイドによって一時的に見かけの炎症が治まったように見えても、がん細胞自体は奥で進行し続けるため、診断を遅らせる原因になります。1週間使用しても改善しない場合は受診してください。

Q. 授乳中ですが、乳頭がかゆくて白い垢のようなカスが溜まります。赤ちゃんに影響はありますか?

A. 白いカスは、母乳の残りかすや皮脂が混ざった「乳垢(にゅうこう)」の可能性がありますが、強いかゆみや痛みを伴う場合は「乳頭真菌症(カンジダ感染症)」も考えられます。真菌症の場合、赤ちゃんが授乳を通じて口の中に感染し、鵞口瘡(がこうそう:お口の中に白い膜ができるカビの感染症)を起こすことがあるため、早めに産婦人科や乳腺外科、皮膚科を受診して適切な外用薬の処方を受けてください。

9 監修者・著者プロフィール

監修

田中 完児(たなか かんじ)

リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長

学歴

昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業

職歴

昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院

免許・資格

ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医

役職

認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人

参考文献

  1. Siponen M, et al. Pruritus of the nipple and areola: a systematic review. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology. 2021;35(8):1638-1646. — JEADV
  2. Karakas C. Paget's disease of the breast. Journal of Carcinogenesis. 2011;10:31. — NCBI PMC
  3. 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版(疫学・診断編). 金原出版. 2022. — 日本乳癌学会
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん 基礎知識. 2023. — がん情報サービス
  5. Adams JR, et al. Paget's Disease of the Breast: A Review of Clinical Presentation and Management. American Journal of Clinical Oncology. 2019;42(11):860-866.

※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。

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