乳首から分泌物が出るのは大丈夫?血が出るとき・男性の場合も〜専門医が解説〜
2026/8/4

乳頭(乳首)から液が出ること自体は珍しくなく、その多くは良性の変化によるものです。触診や画像検査では異常がない、精査の対象となる分泌で手術まで行った海外の報告でも、約10人に9人は良性でした。ただし次に当てはまるときは、様子を見ずに乳腺外科でご確認ください。
- 分泌に血が混じる(赤・赤褐色)/分泌にしこり・皮膚のひきつれ・乳頭のただれ・乳頭の陥没をともなう → 速やかに受診
- 片側の乳房の、1か所の出口からだけ出る/搾らなくても自然に出る(下着につく) → 早めに受診
- 妊娠・授乳と関係のない乳汁(母乳)のような分泌が続く → 早めに受診(→第4章)
- 男性の乳頭分泌はまれで、女性より悪性(がん)が見つかる割合が高いと報告されています → 一度必ず受診
膿(うみ)のようなにごった分泌に発熱をともなうときは、乳腺の感染が考えられ早めの受診が必要です(→第6章)。
乳首からの分泌が気になる方は、お気軽にご予約・ご相談ください
1 乳頭(乳首)から液が出るのは、どのくらいあることか
乳頭の先端には、母乳の通り道である乳管(にゅうかん)の出口がいくつも開いています。乳房は乳汁(にゅうじゅう)をつくる臓器ですから、液体が通る道がもともと備わっているわけです。そこから液体が出てくる症状を、医学的には乳頭分泌(にゅうとうぶんぴつ)と呼びます。
珍しい症状ではありません
乳頭分泌は、乳房の悩みのなかでは「しこり」「痛み」に次いで3番目に多い訴えとして報告されています。海外の報告では、女性全体の2〜5%にみられ、乳房の症状で医療機関を受診した女性の約8%が訴え、乳腺の専門外来へ紹介される理由の3〜9%を占めるとされています。
これらの頻度はいずれも欧米を中心とした報告です。日本人を対象とした乳頭分泌の頻度は確認できていませんので、数字はおおよその目安としてお読みください。
また、妊娠中でも授乳中でもない方でも、乳頭を強くつまんで搾れば、ごく少量の液が得られること自体は珍しくありません。つまり「出た=異常」ではないのです。
それでも一度確認する意味はあります
一方で、乳頭分泌が、乳房のなかで起きている変化を知らせる唯一のサインであることもあります。しこりのように触れて分かるとはかぎらないため、次の章では「様子を見てよいことが多い分泌」と「確認が必要な分泌」を、3つの見分け方で整理します。
2 まず3つで切り分ける(血が混じる/片側の1か所/自然に出る)
精査の対象になる分泌は、医学的には病的乳頭分泌と呼ばれ、次の3つの特徴で見分けます。①血が混じる/②片側の乳房の、1か所の出口から出る/③搾らなくても自然に出る——この3点です。透明〜うすい黄色の水のような液(漿液性:しょうえきせい)も、②と③に当てはまるときは①と同じように確認の対象になります。 あわせて、しこりなど他の変化をともなうかも大切な手がかりになります。
| 様子を見てよいことが多い分泌 | 確認が必要な分泌 | |
|---|---|---|
| 血が混じるか | 混じらない | 赤・赤褐色で血が混じる |
| 片側か両側か | 両側から同じように出る | 片側の乳房だけから出る |
| 出口の数 | 複数の出口から出る | 1か所の出口からだけ出る |
| 出かた | 搾ったときだけ出る | 搾らなくても自然に出る(下着や寝間着につく) |
| ともなう症状 | ほかに変化がない | しこり・皮膚のひきつれ・乳頭のただれ・乳頭の陥没をともなう |
| 色 | 乳白色・黄色など | 色だけでは決まりません。褐色・赤褐色は古い血が混じっている可能性があり、血が混じる場合に準じて扱います。透明〜うすい黄色の水のような液は、片側・1か所・自然に出るときに確認が必要です(→第3章) |
右側の列に当てはまる項目がひとつでもあれば、乳腺外科でご確認ください。すべてがそろっている必要はありません。
「乳管から出る液」と間違えやすい2つのもの
① 乳頭の皮膚がただれて、じくじくする
乳頭やその周りの皮膚そのものが荒れ、ただれてしみ出してくる状態は、乳管の出口から出る乳頭分泌とは区別されます。かゆみ・赤み・皮膚のめくれが中心で、治療をしても治りにくいただれが続く場合は、別の観点からの診察が必要です(→記事末尾の関連記事)。
② 授乳中に乳頭が切れて血が出る
授乳中は、乳頭の皮膚に亀裂(きれつ)ができて出血することがあります。これは皮膚の傷からの出血で、乳管から出てくる血性の分泌とは別のものです。傷が治らない・くり返すときはご相談ください。
3 分泌物の色でわかること・わからないこと
外来では「何色だと危ないのですか」と必ずと言ってよいほど尋ねられます。色は手がかりのひとつですが、色だけで良性・悪性が決まるわけではありません。
| 色 | 背景として多いもの | 見かたのポイント |
|---|---|---|
| 乳白色(母乳のよう) | 妊娠・授乳にともなう生理的な分泌、ホルモンの影響による乳汁漏出 | 両側・複数の出口からが典型(→第4章) |
| 黄色・クリーム色 | 生理的な分泌、乳腺の良性の変化 | 両側・搾ったときだけなら様子を見てよいことが多い |
| 褐色・赤褐色 | 古い血が混じっている可能性 | 血性に準じて扱います |
| 赤(血そのもの) | 乳管内のできもの、まれに乳がん | 速やかに受診してください |
| 透明・うすい黄色の水のよう | 良性の変化のこともある | 片側・1か所・自然に出るなら確認が必要です |
つまり、「白いから安心」とは言い切れず、逆に「透明だから心配ない」とも言えません。色よりも、第2章の片側か・1か所か・自然に出るかのほうが判断の軸になります。
産後すぐの茶褐色の乳汁について
授乳を始めたばかりの時期に、両側から錆(さび)色の乳汁が出ることがあり、多くは数日で自然に治まります。ただし片側だけの場合や、長く続く場合は一度ご相談ください。
4 妊娠・授乳と関係なく母乳のような液が出るとき
「妊娠も授乳もしていないのに、母乳のような白い液が出ます」という相談は少なくありません。乳汁のような分泌が出ることを乳汁漏出(にゅうじゅうろうしゅつ)といいます。
この分泌は、両側から・複数の出口から出ることが多いのが特徴で、第2章の軸でいえば片側・1か所・血性の分泌とは区別されるグループにあたります。背景としては、次のようなものが挙げられます。
- ① 妊娠中期以降・授乳期の生理的な分泌 — 体が乳汁をつくる準備を整えている状態で、心配のいらない変化です。
- ② 授乳をやめたあとの分泌 — 卒乳のあとも、乳汁様の分泌がしばらく続くことがあります。
- ③ 薬の影響 — 一部の薬は、乳汁の分泌にかかわるプロラクチンというホルモンを上げることがあります(下記)。
- ④ ホルモンにかかわる病気 — プロラクチンが高くなる状態として、下垂体(かすいたい:脳の下にあるホルモンの司令塔)にできる良性の腫瘍などが知られています。
薬が関係することがあります(自己判断で中止しないでください)
プロラクチンを上げる可能性がある薬には、抗精神病薬・吐き気止め・一部の胃薬・一部の降圧薬(血圧の薬)・一部の抗うつ薬などの薬効群が知られています。従来から使われている抗精神病薬による治療中の方に乳汁漏出がみられることは、まれではないと報告されています。
ただし、絶対に自己判断で薬を中止しないでください。 中止によってもとの病気が悪くなることがあります。「この薬のせいかもしれない」と思われたときは、処方した医師にご相談ください。受診の際はお薬手帳をお持ちいただくと、確認がスムーズです。
どこに相談すればよいか
妊娠・授乳と関係のない乳汁様の分泌が続く場合は、まず乳腺外科で乳腺に病気がないかを確認することをおすすめします。必要と判断されれば血液検査(プロラクチンなどのホルモン)を行い、結果に応じて内分泌の専門診療科など、適切な診療科へご紹介します。どこへ行けばよいか迷ったときは、乳腺外科からで差し支えありません。
5 男性の乳頭分泌は一度必ずご相談を
男性の乳頭から液が出ることは、まれです。 そして、男性の乳頭分泌では、女性に比べて悪性が見つかる割合が高いと報告されています。 数字の幅が大きく、日本人を対象としたデータも確認できていないため、本記事では割合の数値は示しませんが、「一度必ず受診していただきたい症状」であることははっきりしています。
女性化乳房とは症状が違います
男性の乳房の症状としてよく知られているのは女性化乳房(じょせいかにゅうぼう)ですが、その主な症状は乳輪の下のしこりや膨らみです。乳頭分泌は女性化乳房に典型的な症状ではありませんので、分泌がある場合は別に評価する必要があります。しこり・膨らみのほうが気になる方は、記事末尾の関連記事もあわせてご覧ください。
男性乳がんについて
男性にも乳がんは起こります。ただし乳がん全体のなかでは1%未満とされる、まれな病気です。まれだからこそ「男性だから関係ない」と見過ごされやすく、受診が遅れやすいのが問題になります。
乳腺外科は男性も受診できます
「男が乳腺のクリニックに行ってよいのだろうか」とためらわれる方は少なくありません。乳腺外科は男性も受診していただける診療科です。 当院でも男性の患者さんを診察しています。受診されること自体は、まったく珍しいことではありません。
6 こんな分泌は受診のサイン(レッドフラグ)と受診後の流れ
速やかに受診したいとき(乳腺外科)
- 分泌に血が混じる(赤・赤褐色に見える)
- 分泌に加えて、しこりを触れる/皮膚のひきつれ・くぼみがある/乳頭のただれが治らない/乳頭の陥没が新しく出てきた
早めに受診したいとき(乳腺外科)
- 片側の乳房の、1か所の出口からだけ分泌が出る
- 搾らなくても自然に出る(下着や寝間着につく)
- 透明〜うすい黄色の水のような分泌が、片側から続く
- 妊娠・授乳と関係のない乳汁のような分泌が続く(→第4章)
- 膿のようなにごった分泌に、乳房の赤み・強い痛み・発熱をともなう(乳腺の感染が考えられます)
- 男性の乳頭から分泌が出た(まれな症状です。一度必ず受診してください→第5章)
様子を見てもよいとき(前提つき)
上の「速やかに」「早めに」のどの項目にも当てはまらないことが前提です。そのうえで、
- 両側から・複数の出口から・搾ったときだけ少量出て、血が混じらない
- 妊娠中期以降・授乳中の乳汁
という場合は、あわてて受診しなくても差し支えないことが多いものです。ただしこれは目安にすぎません。少しでも迷ったら受診してください。判断に迷うこと自体が、受診してよい十分な理由です。
受診までにできること
- くり返し強く搾らないでください。 刺激によって分泌が続いたり、乳頭が傷んだりすることがあると考えられています。確認は必要最小限にしておきましょう。
- 下着についた分泌の色・量・片側か両側か・いつからかをメモしておく(写真に撮っておくと、とても役に立ちます)
- 飲んでいるお薬は自己判断で中止せず、お薬手帳を持参する
受診後の流れ
乳腺外科では、おおむね次の順で進みます。
- 問診:いつから・どちらの乳房か・どの出口から出るか・自然に出るか・血が混じるか・妊娠や授乳の経過・服用中の薬などをうかがいます。
- 視触診:乳頭と乳房を観察し、どの出口から出ているか、しこりや皮膚の変化がないかを確かめます。
- 超音波検査(エコー)・マンモグラフィ:乳管の状態や、乳管の中のできもの、しこりの有無を調べます。
- 必要に応じた検査:分泌液を採って調べる細胞診(さいぼうしん)、乳管造影(にゅうかんぞうえい)、MRI、組織の一部を採って調べる検査(針生検:はりせいけん)や、乳管を含めた切除が検討されることがあります。
7 専門家からのひとこと
外来で「一度だけ下着に色がついたのですが、その後は出ないので大丈夫でしょうか」とうかがうことがよくあります。分泌は毎日出るとはかぎらず、受診の日にかぎって出ないということも珍しくありません。ですから、下着についたものをスマートフォンで撮っておいていただけると、診療がぐんと進みます。 色と、どちらの乳房かが分かるだけでも、その日にできる検査の順番が変わります。
もうひとつ、男性の患者さんについて。「男が乳腺のクリニックの待合室にいてよいのか」と気にされる方がいらっしゃいますが、男性の受診は珍しいことではありません。男性の乳頭分泌はまれな症状だからこそ、一度きちんと確かめておく価値があります。 どうぞ遠慮なくお越しください。
FAQ よくある質問(FAQ)
9 監修者・著者プロフィール
田中 完児(たなか かんじ)
リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長
学歴
昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業
職歴
昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院
免許・資格
ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医
役職
認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人
参考文献
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2022年版 ②疫学・診断編. 金原出版; 2022. 検診・画像診断 総説2「検診・診断カテゴリーとPPV3」. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q4 乳房の症状,病気にはどのようなものがありますか. — 日本乳癌学会
- Makineli S, van Wijnbergen JWM, Vriens MR, van Diest PJ, Witkamp AJ. Role of duct excision surgery in the treatment of pathological nipple discharge and detection of breast carcinoma: systematic review. BJS Open. 2023;7(4):zrad066. — PMC10351572
- Jiwa N, Kumar S, Gandhewar R, et al. Diagnostic accuracy of nipple discharge fluid cytology: a meta-analysis and systematic review of the literature. Ann Surg Oncol. 2022;29(3):1774-1786. — PMC8627297
- Tang H, Zhu W, Chen J, Zhang D. Rusty pipe syndrome: a case report and review of the literature. BMC Pregnancy Childbirth. 2022;22(1):770. — PMC9558395
- Molitch ME. Medication-induced hyperprolactinemia. Mayo Clin Proc. 2005;80(8):1050-1057. — PubMed
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班(主任研究者 大磯ユタカ). プロラクチン(PRL)分泌過剰症の診断と治療の手引き(平成22年度改訂). 2011. — 日本間脳下垂体腫瘍学会
- Cuhaci N, Polat SB, Evranos B, Ersoy R, Cakir B. Gynecomastia: clinical evaluation and management. Indian J Endocrinol Metab. 2014;18(2):150-158. — PMC3987263
- 国立がん研究センター希少がんセンター. 男性乳がん. — 希少がんセンター
- 国立がん研究センター がん情報サービス. がん種別統計情報 乳房. — がん情報サービス
- Morrogh M, King TA. The significance of nipple discharge of the male breast. Breast J. 2009;15(6):632-638. — PubMed
- Muñoz Carrasco R, Álvarez Benito M, Rivin del Campo E. Value of mammography and breast ultrasound in male patients with nipple discharge. Eur J Radiol. 2013;82(3):478-484. — PubMed
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。
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