腋窩(わきの下)の痛み、乳癌のサインかもしれない?〜専門医が解説する「腋窩痛」の原因・鑑別・受診タイミング〜

2026/4/11


腋窩(わきの下)の痛み、乳癌のサインかもしれない?

〜専門医が解説する「腋窩痛」の原因・鑑別・受診タイミング〜

📋 この記事の結論
腋窩(わきの下)の痛みの多くは、感染・副乳・皮膚疾患など乳癌以外の原因によるものです。しかし、腋窩の硬いしこりや持続する腫れを伴う場合は、悪性疾患が隠れている可能性もあり、専門科への受診が必要です。
重要なのは、痛みの「有無」だけで良悪性を判断できないという点です。痛みがあっても良性のことが多い一方、悪性疾患を完全に否定できないこともまた事実です。
この記事では、腋窩痛の原因疾患を最新のエビデンスとともに整理し、受診の目安と対処法をわかりやすく解説します。

腋窩痛とは何か? 乳腺外科に来院される理由

腋窩(えきか)とは、いわゆる「わきの下」のことです。この部位には、リンパ節・血管・神経・汗腺・脂肪組織が密集しており、さまざまな疾患が痛みの原因となります。
乳腺外科には、腋窩の痛みや違和感・しこり感を主訴に来院される患者さんが多くいらっしゃいます。多くは「乳癌ではないか」という不安からですが、実際には多様な原因が考えられます。

腋窩に痛みが生じやすいのはなぜか?

腋窩には乳腺のリンパ管の主要な排液路である腋窩リンパ節が20〜30個集まっています。乳癌は乳房内に発生した後、このリンパ節へ転移することがあるため、「腋窩のしこり=乳癌の転移?」と心配される方が多いのです。
一方で、腋窩は皮膚の折り目(間擦部)に当たるため、皮膚疾患や感染症も起こりやすい部位です。また副乳(ふくにゅう)という乳腺の名残組織が腋窩に存在する方も一定数おり、月経周期に連動した痛みを生じることがあります。
乳癌は日本人女性のがん罹患数第1位(年間約11万人、国立がん研究センター 2022年)であり、腋窩症状への関心には十分な根拠があります。ただし現在の日本では早期発見が進み、乳癌における腋窩リンパ節転移の頻度は以前より低下しているという重要な変化も起きています。

腋窩痛の原因一覧:乳癌以外の疾患も多い

腋窩痛の原因は大きく以下のカテゴリに分類されます。

カテゴリ主な疾患痛みの特徴
悪性腫瘍乳癌リンパ節転移、悪性リンパ腫、黒色腫転移無痛性が多いが、痛みがあっても否定できない
感染性細菌性リンパ節炎、猫ひっかき病、EBウイルス急性・発熱・圧痛を伴うことが多い
皮膚・汗腺疾患化膿性汗腺炎(かのうせいかんせんえん)、毛嚢炎(もうのうえん)、粉瘤(ふんりゅう)局所の有痛性結節・膿、繰り返す
乳腺由来副乳(ふくにゅう)、乳腺症月経周期と連動した周期性の痛み
神経系肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)、帯状疱疹(たいじょうほうしん)帯状・放散する鋭い痛み
筋骨格系胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)、肩周囲炎腕挙上時増悪、しびれ・筋力低下
術後乳癌術後疼痛症候群(PMPS)慢性・じんじん・神経障害性疼痛

乳癌と腋窩痛の関係:最新データで見るリスク

乳癌における腋窩リンパ節転移の頻度(最新日本データ)2025年最新

日本乳癌学会の全国登録データ(NCD-BCR 2022年次報告、Breast Cancer誌 2025年2月公開)によると、手術症例全体での腋窩リンパ節転移陽性率は約20.5%です。早期発見・スクリーニングの普及により、以前と比較して大きく低下しています。

📌 主要エビデンス

  • NCD-BCR 2022年次報告(Breast Cancer誌, 2025):日本では早期乳癌(Stage 0〜I)が全手術症例の57%超を占め、腋窩転移陽性率は約20.5%と以前より大幅に低下している。
  • StatPearls: Mastalgia(2024):乳房痛・腋窩痛単独での乳癌発見率は0.5%未満。ただし腫瘤・皮膚変化・リンパ節腫大を伴う場合はリスクが上昇する。
  • 英国NICEガイドライン(NG12):30歳以上で腋窩に腫瘤がある場合(疼痛の有無を問わず)、乳腺外科への緊急紹介を推奨。

「痛みがない=悪性」は単純化しすぎ

「無痛性のしこりは悪性、痛みがあれば良性」という二分法はよく見られますが、正確ではありません。乳癌の腋窩転移は無痛性であることが多い一方、急速増大や神経浸潤を伴う場合は疼痛が生じます。逆に脂肪腫・副乳などの良性病変も無痛性のことがあります。痛みの有無だけで良悪性を区別することはできないという点が、専門家の診察を受ける理由の一つです。

炎症性乳癌(Inflammatory Breast Cancer: IBC)への注意

炎症性乳癌は乳房に明確なしこりを形成しないまま、皮膚の発赤・腫脹・皮膚変化(peau d'orange:オレンジの皮状変化)や腋窩症状が前景に出ることがあります。急速に進行する悪性度の高い病型であり、「炎症かな」と安易に判断しないことが重要です。

腋窩痛の鑑別診断:受診の目安

🚨 以下の症状があれば速やかに乳腺外科・専門科を受診してください

  • 腋窩に硬い・動かない・痛みのないしこりがある(2週間以上続く)
  • 乳房のしこり・乳頭からの異常分泌・皮膚変化(赤み・くぼみ)を伴う
  • 腋窩の痛みやしこりが2〜4週間で改善しない
  • 急速に大きくなるしこり
  • 30歳以上で腋窩に腫瘤がある(疼痛の有無を問わず)
  • 発熱・体重減少・寝汗などの全身症状を伴う(リンパ腫を示唆するB症状)

専門家からのひとこと

外来では「わきの下が痛くて、乳癌じゃないかと心配で…」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。

実際に診察すると、副乳による月経前の周期性の痛みや、化膿性汗腺炎、帯状疱疹の前駆痛であることも少なくありません。

よく「痛みがないから大丈夫」という方がいらっしゃいますが、乳癌の腋窩転移は多くの場合、痛みを伴わない硬いしこりとして現れます。「痛みがあるから乳癌ではない」「痛みがないから問題ない」という考え方は、どちらも正しくありません。

気になる症状があれば、躊躇せずにご相談ください。早期発見が大切なのはもちろんですが、専門の医師による診察を受けることで安心感も得られるはずです。

よくある質問(FAQ)

Q. わきの下が痛いのですが、乳癌の可能性はありますか?

A. 腋窩痛単独での乳癌の発見率は非常に低く、多くは感染・副乳・皮膚疾患が原因です。ただし、硬いしこりを伴う場合や、2〜4週間以上改善しない場合、乳房に変化がある場合は乳腺外科への受診をお勧めします。痛みの有無だけで良悪性を判断することはできません。

Q. 月経前になるとわきの下が痛く、しこりのような感触があります。何が考えられますか?

A. 月経周期に連動した腋窩の痛み・腫れは、副乳(ふくにゅう)の可能性が高いです。腋窩に乳腺組織の名残が存在し、ホルモン変動に反応して痛みを生じます。

Q. 乳癌の手術後から、わきの下〜腕にかけてじんじん・ぴりぴりする痛みが続いています。

A. 乳癌手術後(特に腋窩リンパ節郭清後)に生じる慢性的な神経障害性疼痛は「乳癌術後疼痛症候群(PMPS)」と呼ばれ、術後患者の25〜60%に見られます。放置せず担当医に相談してください。薬物療法・神経ブロック・リハビリなどの治療法があります。

Q. わきの下に硬くて動かないしこりがあります。痛みはないですが受診すべきですか?

A. はい、速やかに受診してください。硬く・動かない・無痛性の腋窩のしこりは悪性腫瘍(乳癌転移・悪性リンパ腫など)の可能性があります。「痛みがないから大丈夫」とは判断できません。

Q. コロナワクチン接種後からわきの下が腫れています。大丈夫ですか?

A. COVID-19 mRNAワクチン接種後の一過性の腋窩リンパ節腫大は報告されています。通常数週間以内に自然消退しますが、マンモグラフィ検診を受ける場合は接種後4〜6週間待機を推奨する機関もあります。2ヶ月以上続く場合や増大する場合は受診をご相談ください。

監修者・著者プロフィール

田中 完児(たなか かんじ)

リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長

■ 学歴
昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業

■ 職歴
昭和55年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
昭和56年5月 関西医科大学卒業
平成7年4月  関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院

■ 免許・資格

  • ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
  • GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
  • 日本乳癌学会専門医取得

■ 役職
認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人

参考文献

  1. Nagahashi M, et al. Breast cancer statistics for Japan in 2022: annual report of the national clinical database-breast cancer registry. Breast Cancer. 2025;32(2):217-226. DOI
  2. Laronga C, Tollin S. Mastalgia. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. StatPearls
  3. Che Bakri NA, et al. Impact of Axillary Lymph Node Dissection and Sentinel Lymph Node Biopsy on Upper Limb Morbidity in Breast Cancer Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ann Surg. 2023;277(4):572-580. DOI
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん. 2023. がん情報サービス
  5. 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版(外科療法編・疫学・診断編). 金原出版. 2022. ガイドライン
  6. 日本乳癌学会. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版. 2023. 患者向けガイドライン
  7. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Suspected cancer: recognition and referral. NG12. 2023. NICE NG12

© リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック | 本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。

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