乳がんセルフチェックの正しいやり方は? 見方・触り方のコツと注意すべきサイン
2026/6/12
乳がんのセルフチェックは、「鏡で見る(視診)」と「指の腹でやさしく触る(触診)」の2つが基本です。月経のある方は月経(生理)が終わってから7日前後、乳房がやわらかくなる時期に、月1回を目安に行いましょう。
ただし、セルフチェックだけで早期の小さな乳がんをすべて見つけることはできません。手で触れて分かるしこりの多くは、ある程度の大きさになってから見つかるものです。それより小さながんは、マンモグラフィや超音波(エコー)検査でしか見つからないことがあります。
大切なのは「いつもの自分の乳房の状態」を知っておき、しこり・皮膚のひきつれ・乳頭からの血性分泌などの変化に早く気づくこと(ブレスト・アウェアネス)と、定期的な検診を併用することです。この記事では、正しいセルフチェックの手順と、見逃してはいけないサインを専門医が解説します。
1 セルフチェック(ブレスト・アウェアネス)とは?なぜ大切なのか
乳がんのセルフチェックとは、自分の乳房を見て・触って、しこりや皮膚の変化がないかを確認する習慣のことです。
近年では、決まった手順を厳密に守る「自己触診(じこしょくしん)」よりも、ブレスト・アウェアネスという考え方が国内外で推奨されています。これは「自分の乳房の普段の状態(形・大きさ・触れたときの感触)を知り、いつもと違う変化に気づいたら早めに相談する」という、より生活に根ざした考え方です。
なぜこれが大切なのでしょうか。日本人女性では、生涯で乳がんにかかる人は約8人に1人とされ、乳がんは女性で最も多いがんです。そして、しこりなどの自覚症状をきっかけに発見される乳がんは今も少なくありません。毎日の入浴や着替えのなかで「いつもの状態」を知っておくことが、わずかな変化に早く気づく第一歩になります。
セルフチェックは「がんを探し出す検査」ではなく、「変化に気づくための習慣」です。見つけることに神経質になりすぎず、リラックスして続けることが長続きのコツです。
2 いつ・どのくらいの頻度で行う?ベストなタイミング
乳房は女性ホルモンの影響を受けて、月経周期のなかで張ったりやわらかくなったりを繰り返します。張っている時期に触ると、正常な乳腺(にゅうせん)の硬さをしこりと勘違いしやすいため、やわらかい時期を選ぶのがポイントです。
| 区分 | おすすめの時期 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 月経のある方 | 月経(生理)が終わってから7日前後。乳房の張りが引いてやわらかくなる時期。 | 月1回 |
| 月経が不規則な方・ 閉経後の方 | 「毎月1日」「給料日」など、自分で決めた覚えやすい日。 | 月1回 |
| 妊娠中・授乳中の方 | 乳房が大きく変化する時期です。不安なときは無理に判断せず受診を。 | 気づいたとき |
頻度は「毎日念入りに」ではなく、月1回で十分です。むしろ毎日触りすぎると、普段との差が分かりにくくなることもあります。月に一度、ゆったりとした気持ちで続けましょう。
3 正しいセルフチェックのやり方【見る・触る】ステップ別
セルフチェックは、「見る(視診(ししん))」→「触る(触診(しょくしん))」の順で行います。お風呂で体を洗うときや、入浴後の保湿のついでに行うと習慣にしやすくなります。
ステップ① 鏡の前で「見る」(視診)
明るい場所で上半身の衣服を脱ぎ、鏡に向かって次の3つの姿勢で左右の乳房を見比べます。
- 両腕を下げた姿勢…乳房の形・大きさ・左右差を確認
- 両腕をまっすぐ上に挙げた姿勢…皮膚のひきつれ(えくぼのようなくぼみ)が出ないか確認
- 両手を腰に当てて胸を張った姿勢…乳房の輪郭や皮膚の変化を確認
チェックする点
- 片方だけ形や大きさが変わっていないか
- 皮膚にくぼみ(えくぼ症状)・ひきつれ・ただれ・赤みがないか
- 乳頭がへこんでいないか(陥没(かんぼつ))、向きが変わっていないか
- 乳頭から分泌物(特に血の混じった液)が出ていないか
ステップ② 指の腹で「触る」(触診)
触るときは、人差し指・中指・薬指の3本の腹(指先ではない)をそろえ、指先でつまむのではなく「の」の字を描くように小さな円を描きながら圧をかけて確認します。
- 乳房全体をまんべんなく:縦方向・横方向・うずまき状など、自分のやり方を決めて、触り残しなく確認する。
- わきの下まで:乳房の外側上部は乳腺が多く、がんもできやすい部位です。わきの下(リンパ節)まで含めて確認します。
- 乳頭をやさしくつまむ:分泌物が出ないかを確認します。
おすすめの姿勢
- 入浴中:石けんで指がすべりやすく、しこりを感じ取りやすい。
- あおむけに寝た姿勢:乳房が胸全体に広がって薄くなり、奥のしこりに気づきやすい。確認する側の腕を頭の下に入れるとさらに触れやすくなります。
4 こんな変化は要注意!受診すべきサイン(レッドフラグ)
セルフチェックで以下のような変化に気づいた場合は、自己判断で様子を見ず、乳腺外科(にゅうせんげか)を受診してください。すべてががんというわけではありませんが、専門家による確認が必要なサインです。
速やかに受診すべきサイン
- 触れて分かるしこり(硬い塊)がある
- 乳房の皮膚にえくぼのようなくぼみ・ひきつれがある
- 皮膚が赤く腫れたり、オレンジの皮のようにブツブツ・むくんだ状態になっている
- 乳頭がへこむ・向きが変わるなど形の変化がある
- 乳頭から血が混じった分泌物が出る
- わきの下にしこりが触れる
- 片側の乳頭・乳輪に治らないただれ・かさぶたがある
| 気づいた変化 | 受診の目安 | 考えられる主な原因 |
|---|---|---|
| 硬いしこり・皮膚のひきつれ | ★★★ 速やかに乳腺外科へ | 乳がんの疑い |
| 血性の乳頭分泌 | ★★★ 速やかに乳腺外科へ | 乳がん、乳管内乳頭腫など |
| わきの下のしこり | ★★★ 速やかに乳腺外科へ | リンパ節転移、リンパ節腫大など |
| やわらかく動くしこり・痛みを伴う張り | ★★ 早めに乳腺外科で確認を | のう胞、線維腺腫、乳腺症など良性のことが多い |
| 月経前の一時的な両側の張り・痛み | ★ 経過観察、続くなら受診 | ホルモン変動による乳腺症 |
「痛みがないから大丈夫」とは限りません。早期の乳がんは痛みを伴わないことがほとんどです。逆に、痛みを伴う張りは良性の変化であることも多いです。痛みの有無ではなく「しこり・皮膚や乳頭の変化」に注目してください。
5 セルフチェックの「限界」と検診を併用すべき理由
セルフチェックはとても大切な習慣ですが、それだけでは不十分です。これは医学的にも重要な点です。
手で触れて気づくしこりの多くは、ある程度の大きさに育ってから分かるものです。それより小さな早期がんや、しこりをつくらないタイプのがん(石灰化(せっかいか)として現れる非浸潤がんなど)は、自分で触れても分からないことが少なくありません。
実際、過去の大規模な研究では、決まった手順の自己触診を指導しても乳がんによる死亡を減らす効果は確認されず、かえって良性のしこりに対する不安や検査が増えたと報告されています。だからこそ現在は、「自己触診だけに頼る」のではなく、「普段の状態を知る(ブレスト・アウェアネス)+ 定期的な画像検診」の組み合わせが推奨されているのです。
| 検査・習慣 | 主な役割 | 推奨の目安 |
|---|---|---|
| セルフチェック (ブレスト・アウェアネス) | 普段との変化に早く気づく習慣づくり | 月1回・年齢を問わず |
| マンモグラフィ | 微細な石灰化など、触れない早期がんを発見 | 40歳以上・2年に1回 (自治体検診) |
| 超音波(エコー)検査 | 高濃度乳腺の方や若い世代のしこりの確認に有用 | 医師の判断で併用 |
- 自己触診と死亡率:上海やロシアで行われた大規模比較研究では、自己触診の指導群と非指導群で乳がん死亡率に差はなく、良性病変への生検(組織検査)が増加したと報告されています。
- 検診の有効性:マンモグラフィによる対策型検診は、乳がん死亡率を低下させる効果が複数の研究で示されており、日本でも40歳以上の女性に2年に1回の受診が推奨されています。
つまり、「セルフチェックで気づく」+「検診で見つける」の両輪が、乳がんの早期発見につながります。
6 気になる変化があったときの受診の流れ
セルフチェックで気になる変化に気づいたら、まず乳腺外科を受診しましょう。「考えすぎかも」とためらう必要はありません。何もなければ安心できますし、もし病気でも早期発見につながります。
受診すべき診療科
乳腺外科(第一選択):しこり・皮膚の変化・乳頭分泌など、乳房の症状全般の専門窓口です。
クリニックで行う主な検査
- 問診・視触診:いつから・どんな変化か、左右差やしこりの性状を確認します。
- マンモグラフィ:乳房を挟んでX線撮影し、しこりや微細な石灰化を調べます。
- 超音波(エコー)検査:被ばくがなく、しこりの内部やわきのリンパ節を詳しく観察できます。
- 針生検(はりせいけん)など:しこりが疑わしい場合、専用の針で組織を採取して確定診断を行います。
検査内容によりますが、多くの場合、当日〜1週間前後で結果や今後の方針の見通しが分かります。良性であればそのまま経過観察、治療が必要な場合も早期であるほど体への負担を抑えられます。
7 専門家からのひとこと
外来診療をしていると、「ネットでセルフチェックのやり方を調べて触ってみたら、しこりのようなものがあって怖くなってきました」という患者様によくお会いします。実際に診察すると、その多くは正常な乳腺の硬さや、良性の乳腺症(にゅうせんしょう)です。
一方で、「毎月チェックしていたから、いつもと違うこのしこりにすぐ気づけた」と、ご自身の習慣が早期発見につながった方もいらっしゃいます。
お伝えしたいのは、セルフチェックは「がんを探して不安になるため」ではなく、「自分のからだの普段の状態を知っておくため」のものだということです。完璧に触れなくても構いません。月に一度、お風呂のついでに胸に手を当てる。その積み重ねが、変化に気づく力になります。
そして、セルフチェックだけで安心して検診を後回しにしないでください。触れない早期がんを見つけられるのは検診です。「気づく習慣」と「定期検診」、この2つをぜひセットにしてください。
FAQ よくある質問(FAQ)
9 監修者・著者プロフィール
田中 完児(たなか かんじ)
リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長
学歴
昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業
職歴
昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院
免許・資格
ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医
役職
認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人
参考文献
- 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版(疫学・診断編). 金原出版. 2022. — 日本乳癌学会
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん. 更新・確認日:2025年5月30日. — がん情報サービス
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん検診について. 更新・確認日:2024年9月20日. — がん情報サービス
- 国立がん研究センター がん統計. 最新がん統計. 更新・確認日:2026年4月27日. — がん統計
- Thomas DB, et al. Randomized trial of breast self-examination in Shanghai: final results. Journal of the National Cancer Institute. 2002;94(19):1445-1457. — JNCI
- Kösters JP, Gøtzsche PC. Regular self-examination or clinical examination for early detection of breast cancer. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2003;(2):CD003373. — Cochrane Library
- 厚生労働省. がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(乳がん検診). — 厚生労働省
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。
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