妊娠中・授乳中に乳腺の検査を受けても大丈夫? 〜専門家が解説する「妊娠期・授乳期の乳腺検査」の安全性と受診の目安〜

2026/6/3


医師監修コラム

妊娠中・授乳中に乳腺の検査を受けても大丈夫?

〜専門家が解説する「妊娠期・授乳期の乳腺検査」の安全性と受診の目安〜

この記事の結論

妊娠中・授乳中でも、乳腺(にゅうせん)の検査の多くは適切な判断のもとで受けられます。超音波検査(エコー)は放射線(ほうしゃせん)を使わないため、妊娠・授乳のどちらの時期でも第一選択(だいいちせんたく)として安心して受けられます。マンモグラフィや組織検査(生検(せいけん))も、必要性に応じて実施可能です。

大切なのは、しこりや血性(けっせい)の分泌物(ぶんぴつぶつ)などの気になる症状があるとき、「妊娠中・授乳中だから」と検査を先延ばしにしないことです。まれに妊娠期・授乳期にも乳がんは発生します。この記事では、各検査の安全性、時期ごとの注意点、そして受診すべきサインを乳腺専門医が解説します。

1 妊娠中・授乳中に「検査して大丈夫?」と不安になる理由

妊娠中や授乳中は、女性ホルモンの影響で乳腺が発達し、乳房全体が張ったり、しこりのように硬く感じる部分ができたりと、もともと変化が起きやすい時期です。そのため「これは普通の変化なのか、それとも病気なのか」と不安になり、受診を考える方が多くいらっしゃいます。

一方で、「検査でお腹の赤ちゃんに影響が出ないか」「母乳に影響しないか」という心配から、受診をためらってしまう方も少なくありません。

しかし、乳腺の検査の多くは妊娠中・授乳中でも安全に受けられます。むしろ、不安を抱えたまま放置することのほうがリスクになり得ます。まれではありますが、妊娠期・授乳期に発見される乳がん(妊娠関連乳がん:にんしんかんれんにゅうがん)も存在し、この時期は乳房の変化に紛れて発見が遅れやすいことが知られているためです。

2 乳腺の検査ごとの安全性(一覧)

乳腺の主な検査について、妊娠中・授乳中の安全性と位置づけを整理します。

検査妊娠中授乳中ポイント
超音波検査
(エコー)
◎ 安全◎ 安全放射線を使わず、第一選択。発達した乳腺でも観察しやすい
マンモグラフィ
(X線)
○ 必要時に可能○ 可能胎児への被曝はごく微量。ただし乳腺が濃く読影しにくいことがある
乳房MRI△ 慎重に個別判断○ 可能妊娠中の造影剤(ガドリニウム)は原則回避。授乳中は造影後も授乳継続可とされる
細胞診・組織診
(生検)
○ 可能○ 可能局所麻酔で実施。確定診断に必要なら時期を問わず行う

※◎=安全・推奨、○=条件付きで可能、△=状況により慎重に判断

主要エビデンス
  • 診断用マンモグラフィは乳房を撮影対象とするため、胎児(たいじ)への被曝量はごくわずか(一般に0.03ミリグレイ未満)で、胎児に影響を与えるとされる線量を大きく下回ります。腹部防護の使用は施設の方針に従います。
  • 授乳中のMRI造影剤(ガドリニウム製剤)は、母乳へ移行する量・乳児が吸収する量ともに極めて微量で、授乳を中断する必要はないとするのが現在の国際的なコンセンサスです。

3 妊娠中の乳腺検査:安全なこと・注意すること

第一選択は超音波検査(エコー)

妊娠中に乳房の症状がある場合、まず行われるのが超音波検査です。放射線を使わないため胎児への被曝がなく、医学的に必要な範囲で繰り返し実施できます。妊娠中は乳腺が発達して密になりますが、エコーはしこりや嚢胞(のうほう)、乳管(にゅうかん)の状態を詳しく観察できます。

マンモグラフィは必要時に実施可能

マンモグラフィはX線を使う検査ですが、撮影部位は乳房に限られ、胎児への散乱線はごく微量です。必要と判断されれば妊娠中でも実施できます。施設の方針により、鉛(なまり)のエプロンなどで腹部を防護することもあります。ただし、妊娠中は乳腺の密度が高く画像が白く写りやすいため、読影(どくえい:画像を読み取ること)が難しくなる場合があります。

MRIは必要性を慎重に判断し、造影剤は原則避ける

乳房MRIは、通常は造影剤を使って乳腺内の血流変化を評価する検査です。妊娠中は造影剤(ガドリニウム)が胎盤(たいばん)を通過するため、造影MRIは原則として避けます。実施するかどうかは、症状やほかの検査結果をふまえて専門医が個別に判断します。

生検(組織検査)も必要なら行う

しこりが見つかり、がんを否定できない場合は、局所麻酔で組織を採取する生検が行われます。妊娠中でも安全に実施でき、確定診断のために必要であれば時期を理由に先延ばしにはしません。

4 授乳中の乳腺検査:母乳や授乳への影響

授乳は続けたまま検査できる

授乳中も、基本的には授乳を続けたまま各種検査を受けられます。エコーは全く問題なく、マンモグラフィも実施可能です。授乳中は乳房が母乳で張っていると画像が見えにくくなるため、授乳または搾乳(さくにゅう)の直後に撮影すると、より鮮明な画像が得られます。

MRI造影剤を使っても授乳は中断不要

かつては「造影剤を使ったら24時間授乳を中断する」と指導されることもありましたが、現在は母乳へ移行する量が極めて少ないことが分かっており、授乳を中断する必要はないとされています。心配な場合は担当医に確認しましょう。

生検後のケア

授乳中に生検を行うと、ごくまれに採取部位から母乳が漏れる「乳瘻(にゅうろう)」が起こることがありますが、多くは自然に治まります。授乳中であることを事前に医師へ伝えておくことで、適切な配慮のもとに検査を進められます。

5 妊娠中・授乳中でも「すぐ受診すべき」サイン

妊娠・授乳に伴う乳房の張りやしこり感の多くは生理的な変化ですが、以下のような症状がある場合は、時期にかかわらず早めに乳腺外科を受診してください。

早めに受診すべきサイン

  • 硬く、動きにくいしこりが片側にあり、気づいたあとも続いている
  • 乳房の皮膚のひきつれ・えくぼ・赤み・むくみ(オレンジの皮のような変化)がある
  • 乳頭から血液の混じった分泌物(赤・茶褐色)が出る
  • 乳頭・乳輪のただれやかさぶたが片側だけで続く
  • 授乳中の乳腺炎(にゅうせんえん)に対する治療をしてもよくならないしこりや赤みが残る

授乳中の乳腺炎としこりは区別がつきにくいことがあります。「乳腺炎の治療を続けても治らないしこり」は、念のため精密検査を受けることが大切です。

6 受診の流れと医師に伝えておきたいこと

何科を受診する?

乳房の症状は乳腺外科(にゅうせんげか)が専門です。妊娠中であれば、まずかかりつけの産婦人科に相談し、必要に応じて乳腺外科を紹介してもらう流れもスムーズです。

受診時に伝えること

  • 妊娠週数、または授乳中であること(今後の妊娠予定があればそれも)
  • 症状に気づいた時期と、その後の変化
  • 過去の乳腺の病気や、家族の乳がん・卵巣がんの既往(きおう)

検査の進み方

問診と視触診(ししょくしん)のあと、まず被曝のないエコーで評価し、必要に応じてマンモグラフィや生検へと進みます。妊娠・授乳の状況に合わせて、安全性を最優先にした検査計画が立てられます。

7 専門家からのひとこと

妊娠中・授乳中の患者さんから、「検査で赤ちゃんに何かあったら…」と、しこりに気づいていても受診を何ヶ月もためらっていた、というお話をよく伺います。お気持ちはとてもよく分かります。

ですが、乳腺の検査の中心となる超音波検査は放射線を使わず、赤ちゃんにも母乳にも影響しません。マンモグラフィや生検も、必要性と安全性を確認しながら行えます。私たちは妊娠中・授乳中の方の検査に日常的に対応していますので、安心していらしてください。

妊娠・授乳中は乳房の変化が大きく、しこりが紛れやすい時期です。「気のせいかな」と先延ばしにせず、気になる変化があれば早めに相談していただくことが、ご自身と赤ちゃん双方の安心につながります。

Q よくある質問(FAQ)

Q. 妊娠中にマンモグラフィを受けても、お腹の赤ちゃんに影響はありませんか?

A. マンモグラフィは乳房を撮影する検査で、胎児への被曝はごくわずかです。施設の方針により腹部を鉛のエプロンで防護することもありますが、いずれの場合も影響が出るとされる線量を大きく下回ります。ただし妊娠中は乳腺が濃く写りやすいため、まずは被曝のないエコーが優先されることが多いです。

Q. 授乳中にMRIの造影剤を使ったら、授乳は止めるべきですか?

A. 現在は、造影剤が母乳へ移行する量が極めて少ないことが分かっており、授乳を中断する必要はないとされています。もしも授乳制限を特に希望される場合は、24〜48時間程度搾乳・授乳を控えるという方法もあります。不安な場合は担当医に確認しましょう。

Q. 授乳中のしこりは、乳腺炎と乳がんをどう見分けますか?

A. 見た目や症状だけで区別するのは難しいことがあります。乳腺炎の治療をしても改善しないしこりや赤みが残る場合は、自己判断せず、エコーなどの検査で確認することをおすすめします。

Q. 妊娠・授乳が終わるまで検査を待ったほうが安全ですか?

A. いいえ。多くの検査は安全に受けられるため、気になる症状があるなら待つ必要はありません。まれに妊娠期・授乳期に発見される乳がんもあり、先延ばしは発見の遅れにつながるため、早めの受診をおすすめします。

9 監修者・著者プロフィール

監修

田中 完児(たなか かんじ)

リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長

学歴

昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業

職歴

昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院

免許・資格

ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医

役職

認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人

参考文献

  1. 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版(疫学・診断編). 金原出版. 2022. — 日本乳癌学会
  2. American College of Radiology (ACR). ACR Appropriateness Criteria: Breast Imaging During Pregnancy. 2025. — ACR
  3. American College of Radiology (ACR). ACR Appropriateness Criteria: Breast Imaging During Lactation. 2026. — ACR
  4. American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Guidelines for Diagnostic Imaging During Pregnancy and Lactation. Committee Opinion No. 723. 2017. — ACOG
  5. American College of Radiology (ACR). ACR Manual on Contrast Media. — ACR Manual
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん. — がん情報サービス

※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。

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