胸のしこりは良性?悪性?「動く・痛い」で見分けられる?
2026/10/6

胸(乳房)のしこりの多くは良性(がんではないもの)です。ただし日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインは、良性か悪性(がん)かは触っただけでは判別できないとしています。「ころころ動く」「丸い」「押すと痛い」は良性のしこりによくみられる特徴ですが、それだけで良性と決めることはできません。新しく気づいたしこりは、触った感じや痛みの有無にかかわらず、早めに乳腺外科(にゅうせんげか)で確かめてください。特に硬い・動きにくい・大きくなるしこりや、皮膚のひきつれ・くぼみ、乳頭(にゅうとう)の変化などをともなうときは、様子を見ずに受診を。迷ったら、受診してかまいません。
この記事では、触った感じでどこまで分かるのか、しこりの変わり方、受診の目安、乳腺外科での確かめ方を順にお伝えします。
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1胸のしこりの多くは良性——それでも「確かめる」ことが大切な理由
乳房の中に、かたまりのように触れるものを「しこり」といいます。医学的には腫瘤(しゅりゅう)と呼びます。
しこりに気づくと、「乳がんかもしれない」と不安になる方が多いと思います。けれども、日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインは、自覚される乳房のしこりの多くは良性であるとしています。しこりとして触れるものには、乳がんのほかに、乳腺(にゅうせん:母乳をつくる組織)の良性の腫瘍、乳腺症(にゅうせんしょう)、皮下脂肪のかたまり、皮膚のできものなどがあります。
一方で、しこりは乳がんの主な症状でもあります。乳がんは、ご自身でしこりに触れるなど、ふだんの生活の中で気づいた変化をきっかけに見つかることがあります。
「多くは良性」と「確かめる」は、矛盾しません。触った感じだけでは、そのしこりが良性なのかどうかを判別できないからです(→第2章)。確かめてはじめて、安心につなげることができます。
- 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』Q4:自覚される乳房のしこりの多くは良性の病変です。しこりとして触れるものには、乳がんのほか、乳腺の良性腫瘍、乳腺症、皮下脂肪の塊、皮膚のできものなどがあります。
- 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」:乳がんは、ふだんから乳房を意識して生活する習慣(ブレスト・アウェアネス)を通じて、しこりに触れるなどの自覚症状をきっかけに発見される場合があるとされています。
- 国立がん研究センター がん情報サービス:乳がんの主な症状は乳房のしこりで、自分で乳房を触って気づく場合もあります。
2「動く・丸い」「押すと痛い」「硬い」「平たい」——触った感じでどこまで分かる?
インターネットでは「動くしこりは良性」「痛いしこりはがんではない」といった見分け方を目にすることがあります。たしかに、良性のしこりによくみられる特徴はあります。けれども、日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインは「自覚したしこりが良性なのか悪性なのかは触っただけでは判別できません」としています。触った感じは、答えではなく手がかりのひとつです。医師も診察でしこりの硬さや動き方を確かめますが、それだけで結論は出さず、超音波検査(エコー)などと組み合わせて確かめます。
ここでは、よく気にされる4つの特徴ごとに、分かることと分からないことを整理します。
① 「ころころ動く」「丸い」しこり
「ころころとよく動く」「丸い」というのは、線維腺腫(せんいせんしゅ)という良性のしこりによくみられる特徴です。線維腺腫は乳房の代表的な良性腫瘍で、10歳代後半から40歳代の方に多くみられます。
一般に、良性のしこりは境目がはっきりしていて、なめらかで、よく動く傾向があるとされます。ただし、こうした良性の特徴をもつしこりが乳がんであることもあり、触った感じだけで確実に区別することはできません。また、はじめは線維腺腫によく似ていても、急に大きくなることが多い葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)というしこりもあります。動く・丸いしこりでも、大きくなってきたものは確認が必要です。新しく気づいたしこりは、触った感じにかかわらず、早めに乳腺外科で確かめてください。
② 「押すと痛い」しこり
押すと痛むしこりは、乳腺症でよくみられます。乳腺症は30〜40歳代の女性に多い、乳腺のさまざまな良性の変化をまとめた呼び名です。乳腺症では乳房の一部が硬く触れることがあり、これを硬結(こうけつ)といいます。硬結は、何もしなくても痛む、あるいは押すと痛むことが多く、その痛みは月経周期と連動します。
けれども、痛みがあるかどうかで、しこりの良し悪しを決めることはできません。押すと痛いから良性とは言えませんし、反対に、痛くないから安心ということもありません。
③ 「硬い」「動きにくい」しこり
一般に、乳がんのしこりは硬く、動きにくく、境目がはっきりしない傾向があるとされます。硬い・動きにくいしこりは、様子を見ずに受診してください。ただし、硬いしこりがすべて乳がんというわけではなく、良性のしこりでも硬く触れることがあります。ここでも、触った感じだけで確実に区別することはできません。
④ 「平たい」「境目がはっきりしない」しこり
平たく、境目のはっきりしない硬い部分は、②でお話しした乳腺症の硬結の典型的な触れ方です。硬結は、月経前に大きくなり、月経が終わると小さくなるのが特徴です。
ここで気づいていただきたいのは、「境目がはっきりしない」という特徴が、③の乳がんの傾向にも、乳腺症の硬結にも当てはまることです。同じ特徴が良性にも悪性にも現れる——これも、触っただけでは判別できない理由のひとつです。初めて気づいたしこりは月経周期を待たずに、月経が終わっても残る・月経周期と関係なく触れるしこりも、受診してください(→第3章)。迷ったら、受診してかまいません。
触った感じは「手がかり」、確かめるのは検査
触った感じの特徴は、医師にとっても大切な手がかりです。けれども、それは「答え」ではありません。医師は、触った感じに、超音波検査などの画像検査や、必要に応じて針を使う検査を組み合わせて、しこりの正体を確かめます(→第5章)。
- 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』Q4:しこり・血の混じった乳頭分泌・皮膚のくぼみなどの症状は、乳がんだけでなく良性の乳腺の病気でも起こり、症状だけで区別するのが難しい場合があるとしています。
- 同ガイドライン Q2:医師は触診で、しこりの場所・大きさ・硬さ・境目がはっきりしているか・よく動くかなどを調べたうえで、画像検査や、必要に応じて細胞や組織の検査を組み合わせて診断します。
- Dodelzon K, Katzen JT(米国の乳房画像診断の総説):多くのしこりは、診察で触れた所見だけでは悪性かどうかを判断できるほど確かではなく、画像検査が必要としています。
3しこりの「変わり方」も手がかり——月経周期と大きさの変化
触った感じのほかに、ご自身でも気づきやすい手がかりがあります。それが、時間の経過によるしこりの変わり方です。気づいてから大きさが変わったか、月経周期にあわせて変わるかといった経過は、診察でも大切な情報になります。ふだんの乳房の状態を知っておくと、こうした変化に気づきやすくなります。
以前から月経前になると張って、でこぼこした硬い部分が触れ、月経が終わると目立たなくなる——という「いつもと同じ」変化は、乳腺症などでよくみられるものです。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインも「月経周期と連動するしこりや痛みはあまり心配する必要はありません」としています。ただし、月経が終わっても残る、周期と関係なく触れる、だんだん大きくなるというときは受診してください。初めて気づいたしこりは、月経周期を待たずに早めに受診してください。判断に迷うときも、受診してかまいません。
閉経後の方は、月経周期の目安が使えません。新しく気づいたしこりは、早めに受診してください。
妊娠中・授乳中は、乳房が大きく変化する時期です。授乳中には、母乳が乳房にたまって、しこりや痛みが出ることもあります。気になるしこりは、この時期でも早めに乳腺外科にご相談ください。必要な検査は受けられます。
4こんなときは早めに乳腺外科へ——受診の目安
基本はシンプルです。新しく気づいたしこりは、触った感じ・痛み・年齢にかかわらず、早めに乳腺外科で確かめてください。初めて気づいたしこりは、月経周期を待たずに受診してください。また、月経が終わっても残るしこりや、月経周期と関係なく触れるしこりも、受診の対象です。
そのうえで、次のようなサインがあるときは、様子を見ずに受診してください。
- 硬い・動きにくい・大きくなるしこり
- 皮膚のひきつれ・くぼみ・赤みの急な広がり
- もともとなかった乳頭の陥没(かんぼつ)、治らないただれ
- 血が混じった乳頭分泌(片側・1か所)
- わきの下のしこり・腫れ
ひとつでも当てはまるときは、痛みの有無にかかわらず受診してください。これらは「必ず乳がん」という意味ではありませんが、原因を確かめておきたい変化です。この一覧に当てはまらなくても、「いつもと違う」と感じるときや、迷うときは受診してかまいません。皮膚のくぼみについては、記事末尾の関連記事「乳房がへこむ・くぼみがあるのは大丈夫?」で詳しく解説しています。
次の検診を待たないでください
しこりに気づいても、「次の検診まで待とう」と考える方がいらっしゃいます。けれども、症状があるときは、検診ではなく診療(外来の受診)として調べるのが本来の流れです。次の検診を待たずに受診してください。
20代・30代でも
「まだ若いから、乳がんではないだろう」と受診をためらう方もいらっしゃいます。たしかに20代・30代の乳がんは、乳がん全体からみると少ないものです。一方で、この世代の乳がんの多くは、ご本人がしこりなどに気づいたことをきっかけに見つかっています。年齢にかかわらず、気になるしこりは確かめてください。
何科を受診すればよい?
受診先は乳腺外科です(「乳腺科」などの名前のこともあります)。乳房の病気を専門とする診療科です。皮膚のできものなのか、乳房の中のしこりなのかは、ご自分では区別がつきにくいものです。迷ったら、まず乳腺外科にご相談ください。
受診前にメモしておくと役立つこと
診察では、しこりの経過をうかがいます。次のことを分かる範囲でメモしておくと、診察がスムーズです。
- いつ気づいたか
- 気づいてから大きさが変わったか
- 月経周期で大きさが変わるか
- 痛みがあるか
しこり以外の症状もあわせて気になる方は、記事末尾の関連記事「どんな症状で乳腺外科に相談すべき?」もご覧ください。
5乳腺外科ではどう確かめる?——受診してから分かるまで
「検査が怖くて、なかなか受診できない」という声をうかがうことがあります。何をするのかを先に知っておくと、少し気持ちが楽になるかもしれません。乳腺外科では、おおむね次の順にしこりを確かめていきます。
| 段階 | 何をするか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 問診 | いつ気づいたか、大きさの変化、月経周期との関係、痛みの有無などをうかがいます | しこりの経過 |
| 視触診(ししょくしん) | 医師が乳房を見て、触れて、しこりの場所・大きさ・硬さ・境目・動き方を確かめます | 触った感じの手がかり |
| 画像検査 | 超音波検査やマンモグラフィ(乳房のX線撮影)で、しこりを画像で確かめます | 良性の可能性が高いか、さらに詳しく調べる必要があるか |
| 細胞診(さいぼうしん)・ 組織診(そしきしん) | 必要なときに、針でしこりの細胞や組織を採って調べます | 良性か悪性かの確定 |
超音波検査とマンモグラフィ
超音波検査は、乳房の中にしこりがあるかどうかを調べるのに役立つ検査です。40歳未満の方などでは、乳腺の密度が高いために、マンモグラフィではしこりが分かりにくいことがあります。そのような場合でも、超音波検査ではしこりを確かめることができます。
針を使う検査も、安全に行えます
画像検査で良性か悪性かの区別がつかないときや、がんが疑われるときは、細い針で細胞を採る細胞診や、局所麻酔(その部分だけの麻酔)をして、やや太い針で組織を採る組織診(針生検:はりせいけん)を行います。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインは、これらの検査はいずれも安全に行うことができるとしています。
良性と分かったら
検査で良性と分かれば、多くの場合、治療の必要はありません。たとえば線維腺腫と診断された場合は、特別な治療は必要ありません(急に大きくなる場合などは、手術で取り除くことがあります)。また、画像検査で良性の可能性が高いと判断された場合でも、念のため期間をおいて画像で再確認する(経過観察)ことがあります。
検査は、しこりの正体を確かめて、安心につなげるためのものでもあります。
6専門家からのひとこと
外来では、「ころころ動くから大丈夫だと思っていました」「押すと痛いので、がんではないと思って」と、しばらく様子を見てから来られる方によくお会いします。実際に良性のことも多いのですが、私たち医師も、触った感じだけで結論を出すことはありません。超音波検査などで確かめてはじめて、「大丈夫ですよ」とお伝えできるのです。
しこりに気づくと、何度も触って確かめたくなるものです。けれども、ひとりで触りながら悩む時間は、不安をふくらませてしまいがちです。その時間を、どうか「確かめる時間」に変えてください。気になったときが、受診してよいタイミングです。
Qよくある質問(FAQ)
8監修者・著者プロフィール
田中 完児(たなか かんじ)
リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長
学歴
昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業
職歴
昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院
免許・資格
ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医
役職
認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人
参考文献
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q4 乳房の症状,病気にはどのようなものがありますか. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q2 乳がんの診断はどのようにして行うのでしょうか. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q3 細胞や組織の検査はどのようなときに行われますか. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q53 AYA世代の乳がんについて教えてください. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2026年版. 東京: 金原出版; 2026. 検診・画像診断 FRQ4 妊娠期に乳がん検診は勧められるか? p.447-8.(書籍/Web版未公開。確認日:2026年10月5日)
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2026年版. 東京: 金原出版; 2026. 検診・画像診断 総説1 診断カテゴリーとPPV3. p.452-3.(書籍/Web版未公開。確認日:2026年10月5日)
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2026年版. 東京: 金原出版; 2026. 検診・画像診断 総説2 診断目的の造影乳房MRIの使い方. p.464-6.(書籍/Web版未公開。確認日:2026年10月5日)
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2026年版. 東京: 金原出版; 2026. 病理診断 BQ5 乳房病変の確定診断のために,穿刺吸引細胞診(FNA),針生検(CNB),吸引式乳房組織生検(VAB)のいずれのアプローチを最初に行うのがよいか? p.522-3.(書籍/Web版未公開。確認日:2026年10月5日)
- 厚生労働省. がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針. 令和7年12月24日一部改正. — 厚生労働省
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がんについて. 2023年7月5日更新. — がん情報サービス
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん検診について. 2024年9月20日更新. — がん情報サービス
- Dodelzon K, Katzen JT. Evaluation of palpable breast abnormalities. J Breast Imaging. 2019;1(3):253-63. doi:10.1093/jbi/wbz040. — PubMed
- Salzman B, Fleegle S, Tully AS. Common breast problems. Am Fam Physician. 2012;86(4):343-9. — PubMed
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q28 乳がんのなかには,通常の乳がんとは異なる特殊なタイプ(組織型)がありますか. — 日本乳癌学会
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版; 2023. Q54 妊娠中に乳がんと診断されました。治療や妊娠・出産についてどのように考えればよいでしょうか. — 日本乳癌学会
- 国立がん研究センター がん情報サービス. がん検診について. 2026年4月1日更新. — がん情報サービス
- 稲本俊. IX. 乳房とリンパ節(特集:身体診察法と異常所見の診方). 日本内科学会雑誌. 2000;89(12):2469-76. doi:10.2169/naika.89.2469. — J-STAGE
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。
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