乳房がへこむ・くぼみがあるのは大丈夫? 〜専門医が解説〜
2026/7/3

乳房のへこみ・くぼみには、加齢や体型の変化、過去の手術・ケガのあとといった良性の原因もありますが、新しくできた限局したへこみや、皮膚のひきつれ(「えくぼ症状」と呼ばれます)は、乳がん(にゅうがん)でみられる皮膚の変化のひとつで、様子を見ずに乳腺外科(にゅうせんげか)で確認したいサインです。とくにしこりをともなう・腕を上げるとくぼみが目立つ・乳頭(にゅうとう)が最近になって引き込まれてきたといった場合は、早めの受診をおすすめします。乳がんは日本人女性の約9人に1人が生涯のうちに経験する、女性で最も多いがんですが、皮膚のわずかな変化から早く見つかることもあります。
この記事では、乳房がへこむ・くぼむのはなぜなのか、その仕組みと原因を整理し、「経過をみてよいへこみ」と「乳腺外科で確認したいへこみ」の見分け方、自分でできるチェックのしかたを分かりやすく解説します。
気になる症状がある方は、お気軽にご予約・ご相談ください
1 乳房が「へこむ・くぼむ」とはどんな状態か
「乳房の一部がへこんでいる気がする」「皮膚にえくぼのようなくぼみがある」——鏡を見たときや入浴中にふと気づいて、不安になる方は少なくありません。
ひとくちに「へこみ・くぼみ」といっても、その見え方はさまざまです。
- 皮膚の表面がくぼむ(えくぼのように小さく引き込まれる)
- 乳房全体の輪郭が部分的にへこむ(左右で形がちがって見える)
- 乳頭(乳首)が内側に引き込まれる(乳頭陥没〈にゅうとうかんぼつ〉)
こうした変化には、体型の変化や加齢にともなう自然な凹凸(おうとつ)のように心配のいらないものもあれば、乳房の中で起きている変化を映し出している注意したいものもあります。
大切なのは、「もともとあったのか、最近あらわれたのか」という視点です。ずっと変わらない左右差や、生まれつきの乳頭の形とは異なり、これまでなかったへこみが新しくあらわれたときは、一度確認しておくと安心です。
2 乳房にへこみ・くぼみができる主な原因
乳房のへこみ・くぼみには、良性のものから確認が必要なものまで、いくつかの原因があります。代表的なものを整理しました。なお、ここでの「考えられること」は一般的な可能性であり、実際の判断は診察で行われます。
| 原因 | へこみの特徴 | 見分けの目安 |
|---|---|---|
| 加齢・体型の変化 | 脂肪や乳腺が減り、全体的にゆるやかにへこむ | 左右にゆっくり進む・急な変化ではない |
| 過去の手術・生検のあと | 傷あとに沿って皮膚がひきつれる | いつからあるか記憶に一致する |
| 脂肪壊死(しぼうえし) | 打撲や手術のあと、しこりや皮膚のへこみができる | ケガ・手術の心当たりがある良性の変化 |
| 乳腺炎(にゅうせんえん)のあと | 炎症が治ったあとに一時的な凹凸が残る | 赤み・痛み・発熱のエピソードのあと |
| 乳がんによる皮膚の ひきつれ(えくぼ症状) | 新しくできた限局したくぼみ・ひきつれ | しこりをともなう・腕を上げると目立つ |
| 乳頭が新たに引き込まれる (後天性の陥没) | 片側の乳頭が最近になって内側に入る | 生まれつきではなく、最近あらわれた |
良性のことが多いへこみ
加齢や体重の変化で乳腺・脂肪の量が変わると、乳房の形はゆるやかに変化します。また、過去に手術・生検(組織を採る検査)を受けた場所や、打撲・手術のあとにできる脂肪壊死は、しこりや皮膚のへこみをつくることがありますが、これは良性の変化です。いずれも「いつからあるか」がはっきりしていることが多いのが特徴です。
確認しておきたいへこみ
一方で、これまでなかったくぼみが新しくあらわれた、しこりと一緒にへこみがある、腕を上げるとえくぼのようなくぼみが浮き出るといった場合は、乳がんによる皮膚の変化のことがあります。次の章で、その仕組みをくわしく見ていきましょう。
3 なぜ乳がんで皮膚がへこむの?(えくぼ症状の仕組み)
乳房の皮膚と内部の組織は、「クーパー靭帯(じんたい)」と呼ばれる、乳房を支える繊維(せんい)の束でつながっています。この靭帯が、乳房の形をハンモックのように支えています。
乳がんができると、その周囲の組織が引きつれ、クーパー靭帯を内側に引っ張ることがあります。すると、つながっている皮膚が内側へ引き込まれ、表面にえくぼのようなくぼみがあらわれます。これが「えくぼ症状(英語でdimpling〈ディンプリング〉)」と呼ばれる、乳がんでみられる皮膚のサインです。
同じ仕組みで、乳頭の裏側にできた変化が乳頭を内側へ引き込むと、これまでなかった乳頭の陥没(後天性の陥没)があらわれることもあります。
- えくぼ症状は、腕を上げたり前かがみになったりすると目立つことがあります。ふだんは分かりにくくても、姿勢を変えると浮き出るのが特徴です。
- 皮膚が赤くはれてオレンジの皮のようにブツブツになる変化(peau d'orange〈ポードランジュ〉)は、まれですが進行の早いタイプの乳がんでみられることがあり、早めの受診がすすめられます。
くり返しになりますが、へこみ・くぼみのすべてが乳がんというわけではありません。ただ、これらは皮膚から分かる数少ないサインであり、気づいたときに確認しておく価値があります。
4 特に注意したいへこみ・くぼみのサイン(レッドフラグ)
へこみ・くぼみの中でも、次のような場合は様子を見ずに乳腺外科を受診したいサインです。これらは「必ず病気」という意味ではありませんが、原因を確かめておくべき変化です。
- これまでなかったへこみ・くぼみが新しくあらわれた
- へこみのある場所にしこりを触れる
- 腕を上げる・前かがみになると、えくぼのようなくぼみが浮き出る
- 乳頭が最近になって内側に引き込まれてきた(生まれつきではない陥没)
- 皮膚に赤み・はれ・オレンジの皮のようなブツブツをともなう
- 乳頭から血が混じった分泌(ぶんぴつ)が出る
これらのサインは、ひとつでもあてはまる場合は受診の対象です。とくに「新しくあらわれた」「しこりをともなう」場合は、痛みがなくても早めに確認しておくと安心です。乳がんは痛みをともなわないことも多いため、「痛くないから大丈夫」とは判断できません。
5 自分でできるチェック(鏡の前で確認する方法)
えくぼ症状(皮膚のひきつれ)は、姿勢を変えると見えやすくなるという特徴があります。月に一度、生理が終わって数日後の胸がやわらかい時期に、鏡の前でチェックする習慣をつけましょう。
見るときのポイント
- 両腕を下ろした姿勢で、左右の乳房の形・輪郭・皮膚のくぼみを見る
- 両腕をゆっくり上げた姿勢で、皮膚のひきつれ・くぼみが浮き出ないか見る
- 軽く前かがみになり、乳房を垂らした状態で左右差やくぼみを見る
- 乳頭の向き・引き込みが、以前と変わっていないか見る
さわって確かめるポイント
- 指の腹で乳房全体を「の」の字を描くようにさわり、しこりや硬い部分がないか確認する
- わきの下まで広げてさわる
セルフチェックは早期発見のきっかけになりますが、セルフチェックだけで乳がんの有無を判断することはできません。気になる変化があれば、自己判断で様子を見すぎず、乳腺外科での検査(マンモグラフィ・超音波〈エコー〉など)を受けることが確実です。正しいセルフチェックの方法は、記事末尾の関連記事もあわせてご覧ください。
6 専門家からのひとこと
外来では、「入浴中に鏡を見たら、胸に小さなくぼみがあることに気づいて」と受診される方がいらっしゃいます。実際に診てみると、過去の生検のあとや体型の変化によるものなど、心配のいらないケースも少なくありません。
ただ、私が診察で必ず確認するのは、「腕を上げてもらったときに、くぼみが浮き出るかどうか」です。ふだんは目立たなくても、姿勢を変えると引きつれが見えることがあり、これは大切なサインになります。ご自宅でも、鏡の前で腕を上げ下げして見ていただくと、変化に気づきやすくなります。
へこみ・ひきつれは、乳房の皮膚から分かる数少ないサインです。「痛くないから」「小さいから」と後回しにせず、これまでとちがう変化に気づいたら、どうか気軽にご相談ください。早く確認できれば、それだけ安心につながります。
FAQ よくある質問(FAQ)
8 監修者プロフィール
田中 完児(たなか かんじ)
リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 院長
学歴
昭和48年3月 大阪府立四条畷高校卒業
昭和55年3月 関西医科大学卒業
職歴
昭和55年4月 横須賀米海軍病院 インターン開始
昭和56年4月 関西医科大学付属病院外科学講座入局
平成7年4月 関西医科大学付属病院第二外科学講座 講師
平成8年11月 英国 Nottingham City Hospital, Breast unit 留学
平成15年4月 関西医科大学付属病院外科学講座(乳腺外科)講師
平成18年1月 関西医科大学付属枚方病院 乳腺外科・科長
平成19年4月 関西医科大学付属枚方病院 病院准教授
平成20年6月 リボン・ロゼ 田中完児乳腺クリニック 開院
免許・資格
ECFMG license of USA(米国医師免許)取得
GMC medical license of UK(英国医師免許)取得
日本乳癌学会専門医取得
日本外科学会専門医
役職
認定NPO法人 J.POSH 理事長
With you(あなたとブレストケアーを考える会)世話人
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳がん. — がん情報サービス
- 日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. 金原出版. 2023.
- 日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2022年版(疫学・診断編). 金原出版. 2022.
- American Cancer Society. Breast Cancer Signs and Symptoms. — ACS
- Cancer Research UK. Breast cancer symptoms. — Cancer Research UK
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Breast cancer - recognition and referral. Clinical Knowledge Summaries. — NICE CKS
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。
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